テストの点数だけで測れない時代の到来
埼玉県公立高校の入試制度が、令和9年度から劇的な転換点を迎えます。これまで受験生を評価する中心軸だった「学力検査の点数」や「調査書の評定」といった数値に加え、新たに全ての受検生に「面接」が課されることになりました。
これは単なる選抜項目の追加ではありません。正解のない「予測困難な時代」を生き抜くために必要な、数字では表しきれない「あなた自身の可能性」を直接見ようとする、教育現場からの力強いメッセージです。この記事では、新制度の核心である「My Voice」や「自己評価資料」を紐解き、これからの受験生がどう自らの「種(タネ)」を育てていくべきかを、教育改革の視点から分析します。
【衝撃】全員が対象! 面接は「一部の生徒」のものではなくなる
これまでの埼玉県入試において、面接は一部の高校や学科のみが実施する「オプション」に近いものでした。しかし、令和9年度からは全ての受検生が面接に臨むことになります。
この変更に合わせ、調査書(内申書)の様式も抜本的に見直されます。従来、先生が記入していた「特別活動の記録(生徒会や行事)」や「出欠の記録」などの項目が削除されるのです。アナリストとしてこの変更を読み解けば、「学校に自分の物語を書いてもらう時代は終わり、自らの言葉で物語を奪還しなければならない」という評価ウェイトの移動が見えてきます。
埼玉県教育委員会は、この制度の狙いを次のように定義しています。
「学力検査や調査書だけではなく、受検生の『知識及び技能』『思考力・判断力・表現力等』『学びに向かう力、人間性等』の3つの資質・能力を、総合的に測る」
実績という「結果」のみならず、一人一人の内面にある多面的な資質を評価する仕組みへと進化したのです。
「My Voice」:自分だけの1分30秒が合否の鍵を握る
新面接制度の最大の見どころは、冒頭の「My Voice(マイボイス)」です。当日の具体的な流れは、以下の通り明確に定められています。
- 入室
- My Voice(1分30秒〜2分程度):自らの言葉でプレゼンテーション
- 質問・応答(3分30秒〜6分程度):面接委員との対話
- 退室
ここで語るテーマは驚くほど自由です。部活動の成功体験だけでなく、日常の些細な「気づき」、葛藤、さらには将来への模索であっても構いません。重要なのは、後述する「自己評価資料」の内容と必ずしも一致させる必要はないという点です。資料に書いたことをなぞる必要も、無理に志望理由と結びつける必要もありません。
My Voice =「あなたの思いを、あなたの言葉で表現しよう」
この定義が示す通り、他の誰でもない「あなた自身の声」を届ける自由が、受検生には与えられているのです。
逆転の発想:「上手さ」や「正解」は求められていない
キャリアアドバイザーとして強調したいのは、「ハキハキと完璧な正解を答える」という旧来の面接像を捨ててほしいということです。指針には明確に「話の上手さや正確さを評価するものではない」と記されています。
今、社会が求めているのは、決まった答えを出す力ではなく、未知の状況に直面した際の「試行錯誤のプロセス」です。そのため、面接では華やかな実績よりも、「なぜその活動をしたのか」「失敗から何を学び、どう考えが変わったのか」という内面の変化が重視されます。
言葉に詰まっても、人前で話すのが苦手でも大丈夫です。あなたの歩んできた道のり、時には「つらい体験」も含めたありのままの姿を、誠実に伝えようとする姿勢こそが「生きる力」として評価されます。
「自己評価資料」は、自分を見つめ直すための地図である
出願時に提出する「自己評価資料」は、面接委員があなたの魅力を引き出すための「地図」として機能します。
- 得点化はされない: この資料自体で点数がつくわけではありません。
- 表現は自由: 文章の美しさや文字の巧拙は問われません。メモや箇条書き、自筆でもコンピュータ作成でも可能です。
- 準備のプロセスが重要: 日頃の「キャリアパスポート」や、気づきをまとめた「ノート・メモ」を活用して自分を整理します。
この資料を作る過程そのものが、自分の「これまで」と「これから」をつなぐ貴重な教育的機会となります。いわば、自分の中に眠る「種」を整理する作業なのです。
評価の物差し:あなたの「生きる力」をどう戦略的に伝えるか
面接の評価項目は、以下の2つの共通観点に加え、各高校が定める独自項目で構成されます。
- 主体的・協働的な学びの力(学び続ける意欲があるか)
- 自らの人生や社会の未来を切り拓く力(他者を尊重し、未来を拓こうとしているか)
ここで鋭い分析を加えるならば、各高校の「学校独自項目」に注目すべきです。例えば、三郷工業技術高校では、校訓である「正確・はやく・美しく」について自らの考えを問う項目が検討されています。
これは高校側の「アドミッション・ポリシー(求める生徒像)」という期待と、受検生の現実が交差するポイントです。志望校が何を大切にしているのかを「選抜実施内容」から読み取り、自分の歩みをどうマッチさせるかという戦略的な視点も、キャリア形成の上では欠かせません。
入試は「評価される場」から「自分を育む場」へ
令和9年度から始まるこの改革は、単なる選抜ツールではありません。入試という大きな節目を通じて、中学生が「自分はどう生きたいのか」を真剣に考え、社会へ出るための「確かな土台」を築くための場です。
「My Voice」で咲かせる花は、決して見栄えの良さを競うものではありません。
樹木がその全身で色を生み出し、やがて美しい花を咲かせるように。あなたが日々の生活の中で見つけた小さな「種」を、あなた自身の言葉という体温で温め続けてください。その誠実な歩みから生まれる言葉こそが、高校入試という壁を越え、これからの人生を彩る鮮やかな大輪の花を咲かせる力になるはずです。